
2025年6月4日、Xactly 株式会社は「インセンティブ制度設計セミナー」と題し、報酬制度や人事評価制度の設計に関心のあるSaaS企業の人事責任者・営業責任者の皆さまにご参加いただき、設計における知見と実践的なアプローチをお伝えするイベントを開催しました。
営業組織のモチベーション向上と経営戦略の実行を力強く後押しする「インセンティブ制度」。
理論と実践の両面から、制度設計に必要な考え方と実務のポイントについて深掘りした本セミナーの模様をお伝えします。
セッション1:経営戦略と営業行動を一致させる「インセンティブ制度設計」の本質とは
登壇者:野崎 洸太郎 氏(株式会社フィールドマネジメント・ヒューマンリソース 執行役員)
■ 評価/報酬制度の改訂が上手くが“進まない”のはなぜか?
セミナーは、「なぜ評価/報酬制度の設計がうまく進まないのか」という問いから始まりました。
その背景には以下のような課題があります。
- 経営陣やステークホルダーとの意見の不一致
- 従業員の反対
- 制度設計担当者の経験不足
経営者、人事担当者、マネージャー、そして現場のスタッフが、現行制度にそれぞれ異なる課題認識を持っています。“全員の視座を揃える”ことが最初の難関であり、極めて難しい作業であると指摘しました。
■ 制度設計の第一歩は「戦略との一貫性」
単なる制度の枠組みを考える前に、最も重要なのは「戦略と組織の整合性」を図ることです。
経営戦略を実現するツールの中で、一貫性を生み出す役割を担うのが「制度」です。報酬制度・評価制度を設計する際には、いきなり評価/報酬制度を設計し始めるのではなく、以下の要素を段階的に分析・確認する必要があります。
- 外部環境の把握
- 経営戦略の把握
- 組織構造の把握
- あるべき人材マネジメントの設定(採用〜育成〜評価〜報酬)
- 現行の人材マネジメントの問題設定(現制度の分析と現場の把握)
これらのステップを経て、改訂コンセプトとビジョン設定を明確に設定することが不可欠です。事業の更なる成長と、経営戦略の実現に向けて、現行制度の課題を明確にし、どのような改善が必要か整理し、ステークホルダーで合意形成をする。この「錦の御旗を立てる」プロセスこそが手戻りのない制度改訂を進めるための最初の、そして最も重要なステップなのです。

■ 評価制度は「行動を変えるための仕組み」
評価制度の真の役割は、経営が求める行動を社員に促し、社員の行動を変化させることです。
人の評価には以下の5段階があると解説されました。
- 成果(結果と施策)
- 発揮能力(態度・行動)
- 保有能力(スキル)
- 潜在能力
- 意欲・やる気
このうち「成果」と「発揮能力」は目に見えやすく評価しやすい一方で、「保有能力」「潜在能力」「やる気・意欲」は目には見えづらく評価が難しい能力です。
人事評価では目に見える成果を重視する一方で、メンバーの育成においては、目に見えにくい能力にも着眼をする必要があると強調しました。
つまり「人事評価」と「人材育成・指導、変化への寄与」は異なる観点で設計すべきであるという示唆です。
■ 報酬制度は“固定”と“流動”のバランスで設計する
報酬は「固定部分」「流動部分」で構成させ、このバランスをいかに最適化させるかが焦点です。これにより多様な貢献、モチベーションを正しく評価できるようになります。今回のテーマであるインセンティブは、この「流動部分」にあたり、短期的な成果を報酬に反映したものです。
最近は、固定給の割合を増やす企業もあります(賞与の給与化)。このメリットは、従業員にとって確実に受け取れる金額が増えることである一方で、トップタレント層にとっては成果が報酬に反映されにくくなり、モチベーションの減衰につながる懸念があります。また資金に余裕のある企業では可能な選択肢ですが、特にスタートアップ企業は慎重に検討すべきです。
セッションを通じて、「報酬はマネジメントの方針そのもの。誰にどのように報いたいのかが出発点」という言葉が非常に印象的でした。報酬制度は、単なる給与体系ではなく、「報酬制度は経営の意図を現場で実行可能にする装置」だという視点の重要性が改めて強調されました。
セッション2:組織と人をともに成長させる――インセンティブ報酬制度の真価とは
登壇者:福田 康隆 氏(ジャパン・クラウド・コンサルティング 代表取締役社長、Xactly株式会社取締役)
■ 報酬制度の本質:「行動を導く」
インセンティブ制度は、日本では外資系企業の営業職向けの報酬制度を中心に採用されており、部分的な情報が先行して広まっている面があります。しかし、インセンティブ報酬の本質は「売上が上がればいい」という短絡的なものではなく「会社として社員にどのように行動してほしいかを明確に伝える」手段であることが冒頭で強調されました。
「事業戦略」「人事戦略」「報酬制度」の3つが連動することで、売上目標達成や人材の活性化、採用力強化といった多角的な目的を実現できるのです。

■ 成果を引き出す具体的なインセンティブ設計とは?
「インセンティブ」という言葉には、大きく分けて「ボーナス」と「コミッション」という2つの分類があります。ボーナスは特定の目標の達成に対する固定的な報酬、コミッションとは成果に応じて変動する報酬を意味します。
さらに、「インセンティブ」と一口にいっても、目的や意図に合わせて多様なルールの設計、デザインが可能であることにも触れられました。特に、「中間層(売上達成率55~65%)」の行動を変えるための設計が鍵になり、ルール設計次第で、従業員の行動変容を強力に促進することが可能です。
行動変容を促す、具体的なインセンティブプランのデザイン例として、以下の解説がありました。
- 目標達成に満足せず成果をさらに加速させる「アクセラレーター」の設計
- 戦略上重視したい商品や販売条件を促すための設計
- SPIF(Sales Performance Incentive Fund)と呼ばれる短期的な成果を押し上げる目的のインセンティブ
また、事業の立ち上げ時期は、売上の正確な見通しを立てることは難しく、個人に目標を設定すること自体が困難です。初期のフェーズでは、チーム目標に対するインセティブを設定し、徐々に個人目標による個人へのインセンティブに移行するなど具体的な運用について実例を交えて解説がありました。
■ 健全な営業費用とパフォーマンスの両立
インセンティブ設計の際には、財務的な健全性も考慮する必要があります。効率的な支出となっているのか、人事設計とファイナンスの両方が組み合わさり成り立つものです。
固定的な賞与支給では、業績との連動が曖昧になりがちです。成果連動ベースのインセンティブであれば、財務的にも健全な分布が得られます。
■ ジョブ別に異なる設計を
コミッションプランは基本給と業績給の階層になっており、その割合については「収益に対する責任」に基づいて考慮されます。
営業職にも「顧客担当営業」「製品営業」「チャネル営業」「カスタマーサクセス」など様々な役割があることを前提に、役割に応じて「Paymix(基本給とインセンティブの比率)」は異なります。一般的には、売上を上げることに直接的な責任を持つ営業職は業績給の割合が大きくなります。
また、役割ごとの評価基準も重要です。営業であれば売上目標に対する達成率、カスタマーサクセスマネージャであれば継続率やアップセル額、インサイドセールスであれば適格商談の創出目標など、企業のステージや、社員に取らせたい行動で基準は変わります。
そして、目標の設計は非常に重要です。
目標を高く設定すれば、理論上のセールスキャパシティは増え、業績給の原資を増やすことができる一方で、未達成者が増えると組織全体のモチベーションが低下したり、年度前半で躓くと後半に向けてのやる気を失ってしまい著しくパフォーマンスが下がるリスクがあります。一方で目標を低く設定すると、達成者が増えて組織に活気が生まれる一方で、ストレッチしなくなり組織全体のパフォーマンスが最大化されない、業績給の支払い金額が増加する懸念があります。目標のバランスが非常に重要であることが強調されました。
■ 制度設計・運用の全体フロー
報酬制度の導入には以下のようなステップが必要です:
- 次年度目標の仮設定と人員計画
- 報酬プラン・目標設計のドラフト
- 社内説明会を通じた制度理解の促進
- 実運用と毎四半期でのモニタリングと評価
制度が有効に機能するためには、「納得感」と「理解」が欠かせません。特に営業現場での理解促進が成果を左右します。
Q&Aセッション:現場のリアルな課題に寄り添う知見の共有
セミナー後半のQ&Aでは、以下のような具体的な課題が挙がりました。
- 昇給幅や等級の設計基準
- 納得感のあるコミュニケーションのあり方とは
- 採用オファー時の金額設定基準
- 担当する顧客や領域、役割変更時や、プロダクト追加時のルール設計
- 営業マネージャーのインセンティブ制度
特に、ジョブ、役割の違いによる不公平感の払拭について、完璧に公平な状態というのは存在しないという現実的な示唆がありました。「売上目標を達成しない限り事業運営の前提が崩れてしまうので、直接的な責任とプレッシャーが寄せられる役割の報酬割合が多い」という前提と共通理解の醸成は、経営層によるリーダーシップを発揮するべき要所であると解説されました。
まとめ:インセンティブ制度は「組織の行動を方向づける戦略的なドライバー」である
今回のセミナーでは、「評価制度・報酬制度は経営戦略と密接に連動して設計されるべきである」という共通認識が参加者の間で共有されました。インセンティブ制度は、組織の行動を方向づける戦略的なツールで、特にSaaS事業向けに意図を持って設計する方法が具体的に解説されました。
Xactlyでは、クラウド型のインセンティブ管理ソリューションを通じて、制度の実行・運用まで一貫した支援をご提供しています。
今回のセミナーで解説したインセンティブ制度設計の方法のさらに詳しい内容については、営業報酬プラン設計のための決定版ガイドをぜひご確認ください。