Pay Mix(ペイミックス)とは何か?
Pay Mixとは、成果連動型のインセンティブ報酬制度で取り入れられる、OTE(On-Target Earnings:目標達成率100%達成時の支払い年収)の内訳である基本給と変動給の比率を意味します。変動給とは、歩合、出来高払い、コミッションと言われるような成果に応じて所定のパーセントで支払われる変動型の賞与のことを指します。例えば、Pay Mixが60/40なら、基本給と変動給が60対40の割合で設定されています。つまりOTEの60%が固定給である基本給、40%が変動給になります。挑戦的なPay Mixでは、50/50や60/40のような設定もあれば、保守的なPay Mixでは、80/20や90/10などに設定されます。
Pay Mixの定義はシンプルですが、営業向けのPay Mixの設定は慎重を期す必要があります。Pay Mixを適切に策定できるかが、チームの売上目標の達成度合いや、営業担当の満足度やモチベーションに大きく左右します。
適切なPay Mixの検討のポイント
Pay Mixを設定する際は、営業担当のモチベーションに直結する様々な要素を検討する必要があります。例えば、営業職の種類、商材やサービスの種類、モチベーションを高める仕組みなどが要素になります。また、セールスサイクルの長さ、商談数、顧客タイプなどの要素も、最適なPay Mixを定めるための判断材料になります。
基本的な考え方として、Pay Mixの比率によって、営業の働き方や活動内容が変わってくることを理解しましょう。比率の設定を確定する前に、Pay Mixに関するあらゆる選択肢を検討することが重要になります。
以下に比率の例を挙げてみます。
0/100 - Pay Mixがこのように設定されている場合、基本的に各営業担当者は単独活動を強いられることになります。そのような状況下ではストレス管理が非常に難しく、給与を週払い制にする必要があるかもしれません。
50/50 - 欧米企業のアカウントエグゼクティブは、この挑戦的なPay Mixが適用されています。インセンティブによる影響力を行使しながらも、固定給によって担当者に安心感を与えることができます。変動給の割合が年収の半分であっても、担当者は十分にモチベーションを得ることができます。
60/40 - この比率は、ある意味、業界を問わず標準的と言えるでしょう。営業成績を上げるインセンティブやモチベーションとしては、バランスがいいPay Mixです。
70/30 - やや保守的な比率です。非常に複雑な商品や技術的な製品を営業している担当者向けのPay Mixとして、一般的な比率になります。また、新人のような育成中の営業担当者向けにも、このPay Mixが設定されていることが多くなっています。
90/10 - かなり保守的なPay Mixであり、この報酬制度によって担当者のモチベーションが大きく上がることは期待しません。営業マネージャーのような職種の場合は、このように変動給の割合が低くても自分のチームやその成功をサポートを動機付けするのに機能します。
最適なPay Mixの選択方法
前述の内容は、代表例としてPay Mixの参考になるかもしれませんが、「他社のPay Mixはどうなっているのか」という疑問も残るのではないでしょうか。同じ地域で事業を展開している他の企業や、自社と同規模の会社は、報酬制度をどのように定めているのでしょうか。
そのためには、ベンチマークデータを参考にします。そこからは、他社のPay Mix方針に関する重要な情報を得ることができます。自社の報酬体系を他社と比較することができれば、もっと自信を持って報酬戦略を強化できるようになります。
営業報酬ベンチマークツールを使うことで、他社のPay Mix設定水準、売上目標を達成している営業担当の割合、組織内における平均的な営業Pay Mixなどについて、明確なデータを手に入れることができます。
営業の職種別の標準的なPay Mix
一般的に、顧客の購入意思決定に最も大きな影響力を持つ職種には、より挑戦的なPay Mixを設定することが推奨されます。つまり、Pay Mixでは顧客の購入意思決定に対する直接的な貢献度を反映させる必要があります。
営業担当(アカウントエグゼクティブ)
商談を成立させる責務を担う営業担当ほど説得力が必要な役割はありません。営業担当のPay Mixは、この点を反映した挑戦的な比率に設定し、新たな商談への挑戦を後押しするべきです。
Xactlyのお客様データベースから導いたベンチマークによると、営業担当のPay Mixは一般的に50/50または60/40に設定されています。この割合の違いには、販売している製品やサービスの性質の違いが反映されることが多いです。例えば、従来から販売している老舗ブランドを有する企業は知名度も高く売りやすいですが、知名度の低いブランドの製品やサービスの販売は挑戦的になります。従って、知名度の高い企業で働く営業担当者のPay Mixは、新興企業で働く営業担当者のPay Mixよりも保守的な比率となる傾向があります。
インサイドセールス
新たな商談をもたらしてくれるインサイドセールスが、セールスプロセスで重要な役割を果たしていることは明らかです。しかし、顧客への直接的な説得力という観点で言えば、インサイドセールスが顧客の最終意思決定に与える影響は限られるため、その分、保守的なPay Mixを設定するべきです。
営業スペシャリスト
営業スペシャリストとは、営業担当とインサイドセールスと共に行動する役割です。商談を最終的に成立させる立場にはありませんが、顧客向けデモのプレゼンターであれば、かなり顧客に説得力が必要な活動を行っているはずです。そのため、営業スペシャリストのPay Mixは、営業担当のPay Mixよりも保守的に、かつインサイドセールスのPay Mixよりも挑戦的に設定するべきです。
カスタマーサクセス担当
カスタマーサクセス担当は、既存顧客を相手に、その満足度を第一に考えて活動しているため、報酬獲得のために新たな仕事を取ってくる営業担当ほどリスクが高い役割ではありません。そのため、カスタマーサクセス担当向けには、保守的なPay Mixを設定するべきでしょう。
営業マネージャー
営業マネージャーとは、何よりも営業チーム全体に対する責任を担う人物です。その責務の1つとして、自ら商談をまとめるのではなく、成約率が上がるように担当者を指導します。顧客の説得に一翼を担ってはいますが、間接的な役割であるため、営業マネージャー向けには、その部下である担当者よりも保守的なPay Mixが設定されていることが一般的です。
報酬関連用語の補足説明
変動給
変動給の作用は強力で、チームのモチベーションを大きく上げることもあれば、反対に大きく阻害することもあります。どちらに転ぶかは、当然、複合型報酬制度の方針によって決まります。変動給の割合が大きすぎれば、担当者は単独で、手探りしながら活動することとなります。他のチームメンバーと協力する必要性は軽視されるでしょう。変動給の割合が小さすぎれば、担当者は保障された給与に満足してしまい、モチベーションを十分に保つことができません。
リスクに対する報酬
変動給とは「リスクに対する報酬」であると聞いたことがあるかもしれません。この言葉が表す通り、担当者は目標を達成できなければ給与の一部が支払われない「リスク」を背負っています。担当者の給与をリスクにさらすのであれば、担当者が目標を上回った場合には、その上回った度合いに応じて追加で報酬(アップサイド)を支払うべきでしょう。
アップサイド(レバレッジ)
アップサイドとは、担当者が目標を上回った場合に獲得できる報酬額を意味します。アップサイドは有効な制度ですが、別途計画を策定する必要があります。顧客の購入意思決定を最も左右するアカウントエグゼティブのような営業担当には、高額のアップサイド獲得チャンスを提供するべきです。一方で、商談の成立にそれほど関与していない営業職(例. 営業マネージャーなど)には、それほど高額のアップサイドを設定するべきではありません。
Pay Mixで従業員の離職率を抑制できる
会社の目標に合わせて適切なPay Mixを設定することで、営業チームメンバーの離職率を抑制することができます。段階的な報酬構造を設ければ、チーム内での昇進方法が伝わりやすく、転職を考える人材を減らすことができるでしょう。
最初から完璧なPay Mixを導くことは簡単なことではありません。そのため、一度設定したPay Mixを決してそのまま放置してはいけません。チームのパフォーマンスを明確に追跡する手段と、確信を持って将来に向けた前向きな変更を行うためのインサイトを手に入れる必要があります。
営業の報酬プラン設計の決定版ガイドには、Pay Mixの考え方を含む、報酬設計上に考えるべき必要な項目がガイドとしてまとめられています。営業報酬のあり方を見直し、成果の上がる営業組織の構築を考えている方は、ぜひこちらのガイドをご一読ください。